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「日本の住宅水準は欧米なみ」のウソ

2018年3月12日「月曜日」更新の日記

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 イギリスの住宅の特徴は、公営住宅が多いことである。 ロンドンの住宅の40パーセントは公営住宅で占められている。 ロンドンのイーストエンドは、かつてスラム街として知られていたが、今日では行けども行けども立派な公営住宅が立ち並んでいる。 イギリスの国全体では、公営住宅が32パーセント、しかもそのうちの6割以上が3LDK以上という広さだ。  公営住宅というと2DKが標準である日本とはまったく違う。 そこには勤労者が簡単に入居できて快適に暮らせる家を国家の手によって保障しよう、という考え方がある。 それがイギリスの住宅政策の基本になっている。18暮らし老人用の公営住宅も、広さは内法で40平方メートル以上はある。 これは日本の公団の2DK以上の広さと考えてよい。 老人にとって大切な隣人とのコミュ二ケーションを確保するために広い居問があり、寝室は別の部屋になっている。キッチンでは必ず食事ができなければならない。  欧米ではだいたい寝室は12平方メートル以上と決められている。 居間の広さは国によって違うが、アメリカは14平方メートル、イギリスが15平方メートル、西ドイツが18平方メートル、スウェーデンは20平方メートル以上確保しなければならないとされている。 日本ではタタミ1畳の部屋でも、そこで人が寝起きしていれば1室と数えられる。 日本はアメリカ、イギリスよりは悪いが、西ドイツと同じで、フランスやスウェーデンよりもよい状態だということになる。 これをもって政府は日本の住宅水準も欧米なみになったなどと言っているが、とんでもないことで、そこには今述べたような部屋の数え方が異なるというカラクリがある。 日本と欧米では部屋というものの概念がまったく違うのである。  高層住宅の弊害については、すでにみてきたとおりだが、イギリスで公共の高層住宅が禁止された直接の契機は、1968年に高層住宅で起こったガス爆発事故にある。 多数の部屋が破壊されて何人もの人が死んだ。 それ以来、高層住宅廃止の気運が高まり、種々の問題点も指摘されて1970年代の全面禁止へと進んだ。  現在では3、4階建て以下の共同住宅を建設すると同時に、古い家を修理・改善して住むことが住宅政策の中心になっている。 100年ぐらい前の家でも構造がしっかりしているので、キメ細かく修理すれば立派な家になり、住み続けることができる。  古い家をとり壊してそこに近代的な高層住宅街を建設すれば、整然とスマートにはなるが、立ち退きなどによってそれまでにあった人々のコミュニティーが破壊され、あるいは元の住民が住み続けられなくなってしまう。 そういった再開発事業はよくないという意識が非常に強い。公営住宅や民間借家に住む人に対する家賃補助もゆきとどいている。 だから、失業したから、低所得者だから、悪い住宅にしか住めないということはない。 まったく同じ3LDKの家に住みながら、収入によって家賃が違ってくるのだ。 こういう制度が住宅政策の基礎になっている。 固定資産税も収入によって決まる。  イギリスの住宅政策を支えるもう1つの柱は、先にもすこし述べた住宅監視員の制度である。 地域を住宅監視員がパトロールし、「不適格住宅」を発見すると改善命令を出す。 改善に必要な費用は半分ぐらい補助してくれる。 特別に改善に力を入れなければならない地域では7割~9割ぐらい補助してくれる。 融資ではない。  不適格住宅とは、便所や台所がない、水道・お湯が出ない、老朽化が激しい、自然換気・自然採光のない部屋に寝ている、過密居住などを指す。 過密居住とは、夫婦以外の10歳以上の男女が同一の部屋に就寝している、1部屋に2人以上、2部屋に3人以上寝ている場合などだ。 広さでいうと、9平方メートル(約5.5畳)に1人以上、12平方メートル(約7畳)に2人以上住んでいると過密居住になる。  補助してもらっても改修できない、増築するスペースもないという場合は公営住宅を斡旋してくれる。 イギリスでは、人間が生活していくためには最低これだけの住居は必要だという基準がはっきりできている。 住宅監視員の制度は、ちょうど日本でも保健所が毒々しい色のタラコとかAF入りの豆腐を売っているのを見つけると、健康を破壊するというので発売禁止にしてしまうのと同じような制度が住宅に適用されていると考えればよいだろう。  イギリスには「シェルター」という住宅運動団体もあって、家のない人たちに住宅を確保しよう、子どもの住環境をよくしようと、社会に訴えている。 そのためにいろいろな調査をしたり、大きなキャンペーンを組織したり、法案をつくったりもしている。  行政・住民ともに住宅はどうあらねばならないかを考え、特に住宅に困っている人たちを最優先にして住環境を改善していこうとしているのがイギリスである。

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