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一方的値上げのカラクリ。傾斜家賃制度の実情

2018年3月28日「水曜日」更新の日記

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 公団住宅は民間アパートに比べて、広さや設備の割には家賃が安い。 政府の住宅政策の一環として供給されているのだから当然と思うかもしれない。 だが当局は、公団住宅も民間借家と同じ市場家賃でよいと考えている節がある。 10年近く前から、公団は家貨の一方的値上げを続けている。古い住宅の家賃は2DKで1万5000円などと安かった。 だから、5000円、1万円という具合に上がっても、民問借家に比べるとまだ安い。 だが、年金で暮らしている退職老人にとっては大変な重荷である。 居住者の団体である公団自治協は、家賃の一方的な値上げは不当であり、住宅政策の責任を放棄するものとして数年間裁判で争ったが、和解した。 今後、公団や公社の家賃上昇はどこまで続くかわからない。何よりも大きな問題は、公団家賃は民間借家と同じでよいと当局が考えていることだ。 裁判でもそのことが公団当局によって強調された。 政府の行革による公団の縮小・民営化のもとで、勤労者に低家賃の住宅を供給するという使命は忘れられようとしている。  古い住宅の家貨が上がる一方、新しく建設される住宅の家賃の高さはもはや公共住宅とは考えられないほどである。 1986年に建設された東京の公団(最終)家賃は約15万円、大阪でも12万円になる。 入居資格が著しく狭められるだけでなく、入居できてもローンの場合と同じように、病気などのちょっとした事故があればたちまち破綻することになる。 そして家賃を払えない者は、裁判で強制的に立ち退かされる。  家賃裁判で公団当局は、新旧家賃の格差の解消を主張した。 新しい住宅の家賃に対して古い住宅の家賃は安すぎるから値上げする必要がある、というのである。 この理屈はだれが考えてもおかしい。 新しい家賃の異常な高さについてはなんの疑問も感じていないからである。 むしろそれを下げて一般の勤労者が入居できるようにするのが公共住宅の使命であるのに。  そのうえ、はじめはこの高家賃をなんとか払えても、「傾斜家賃」が襲いかかってくる。 傾斜家賃制度というのは、高くなった公団家賃を払うには入居当初の負担が大きすぎるので、最初は低く抑え、一般的な賃金のアップに合わせて一定割合で家賃を高くする方式である。 1970年に一部の市街地住宅ではじめられ、76年4月からすべての新築公団住宅に対して、10年間、毎年7.2パーセントずつ値上げしていく制度がとられた。 この傾斜家賃制度は、賃金のベースアップを前提にしたもので、アップ率は高度成長時代に割り出された。  だが現在のようにあまり貨金が上がらず、むしろ残業が減って収入減になったり、失業の心配さえ出てくると、傾斜家賃は過酷な方式となる。 だから中には当初の安い家賃の間だけ住んで、家賃が上がってくると他の団地へ引っ越してしまうという人もいる。 だが、いつまでもそんなことを続けられるわけがない。  公共住宅の家賃を一定割合で上げてゆく方式には、西ドイツの社会住宅がある。 社会住宅は、住宅経営を希望する者に政府が無利子の金を100年返済で貸し付ける。 原価家賃を計算し、原価が一平方メートル当た5・45マルク(1マルク約80円)、100平方メートルで545マルク(1980年当時)を超えると、超えた部分に対して政府が12年間返済で補助をする。 だから、12年の問すこしずつ傾斜家賃になっていく勘定である。 家主には、軽いインフレがあっても、一定の値上げで収入が減らないように保証されているのである。  入居者については家の大きさに応じて入居できる家族人数が決まっており、3LDKには子どもが異性の場合、4人以上住めない。 そういうことを前提に、家賃が収入の約20パーセントを超えると、市町村が超えた部分を援助する。  西ドイツの社会住宅は傾斜家賃になっているが、家の大きさと家族数の対応を前提に、収入の一定割合(20パーセント)を超えることはないのである。

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